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2015/06/09 16:58

天然醸造という言葉は、二つの意味があります。

一つは、醤油の商品表示を定めている公正競争規約の中の、表示してもよい文言としての「天然醸造」です。「天然」「自然」は禁止されていますが、「天然醸造」は、本醸造であり、麹由来の酵素のみを使い、食品添加物を使用していないものについて表示することが認められています。FRP製のタンクで、加温して発酵させたものでも「天然醸造」であるというものです。

 

 

もう一つの「天然醸造」は醤油の技術に関する本などに登場する「天然醸造諸味」というものです。醤油屋が無意識に「天然醸造」というのは大体がこの意味で言っています。

これは、醤油の製造工程のなかで時間の面では大部分を占める諸味の発酵、熟成のところで、自然の温度変化にまかせて行なうことを意味しています。この諸味の工程で、人為的に温度を下げたり上げたりすることが本格的に行なわれたのは1960年ごろからです。仕込み塩水を冷却する「冷水仕込み」、酵母発酵のため温度を上げる「温醸」、そして、諸味工程全体の温度管理をする「適温醸造」が、全国の醤油屋で導入されています。それに対する従来の方法としての「天然醸造」ですから、この言葉自体は案外新しいのかもしれません。

「天然醸造諸味」でも、諸味工程以外では人為的な温度管理が行なわれなければ醤油になりません。例えば大豆を蒸すとか、小麦を炒るとか、麹を温めるとか冷ますとか、というものは絶対必要です。醸造全般を自然のままでというのは存在していません。諸味の工程だけが「天然醸造」なのです。

 

「天然醸造諸味」という発酵工程のものであっても、食品添加物を使用しているものは「天然醸造」と表示できません。ラベル表示の決め事としては「天然醸造」と「天然醸造諸味」は公正競争規約で定められたものに条件を満たしたものに限られます。

 

最初に書きましたが、醤油の公正競争規約で「天然」「自然」という文言の使用は禁止されています。

正金醤油の商品の説明書きに、「夏場の自然な発酵過程を経て」という文言を入れていたのですが、醤油の業界団体から注意を受け、「夏場の発酵過程を経て」に変えました。人為的な発酵過程があることを前提とした「自然な」という表現ですが、そういう場合でも「自然」は禁止ということです。

 

※醤油の工程

大豆、小麦→麹+塩水→諸味→搾る→生醤油→調整、火入れ、ろ過→製品